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大阪高等裁判所 昭和34年(く)26号 決定

少年 K(昭一九・七・九生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、本少年は年令僅かに十四歳であり、且つ未だ一度も保護処分を受けたことはなく、矯正し得る将来性のあるものと思料せられる。その矯正教育のため原決定は少年院に送致としたが、少年院は少年にとつて家庭及び社会から隔離せられたものとの心理的観念を受け、その影響は甚大なものである。家庭にあり又は社会にあつて矯正教育をするに優るものはない。本件発生以来抗告人である父Yは自分の少年に対する保護及び教育が十分でなかつたことを反省し、同人は天理教の熱心な信者であるところ、少年に対しても宗教的信念をいだかしめ矯正の一途としたい考えで、少年を天理教の指導機関に送りたいと思料している。さすれば原裁判所の憂慮する少年の性格の矯正と環境の調整もできることである。原裁判所は審理の際保護者の意見を十分に聞かなかつたものである。よつて初等少年院送致の原決定はその処分が著しく不当のものとして、これが取消を求めるため抗告に及んだものであると言うのである。

よつて記録を精査し案ずるに、なるほど少年は現在満十五年を漸く越したところであり、本件は本少年については家庭裁判所の受理としては第一回目であるが、少年の非行は、中学入学期である十二、三歳時既に始まり、爾来その頻度は次第に高まり、且つ内容も悪質化の傾向にある。その間しばしば学枝や警察署から注意や、補導を受け反省の機会も十分あつたのにも拘らず、最近では原決定の摘示どおり不良集団である「金竜会」にも入会し、又女性関係の非行は著しいものである。一方家庭の保護能力は従来の監督不行届、指導性欠如に徴して不充分と言うほかない。原裁判所の審判廷において保護者に十分意見を述べる機会が与えられたことは記録上明らかであり、原決定も諸般の状況を大いに考慮していることが窺える。所論のような天理教の指導機関による矯正の計画も、その実現性、且つ不良交友関係等の環境の調整に思いを致すときは、原決定の処分が相当と思料せられる。

よつて本件抗告は理由がないものとし、少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山本武 裁判官 三木良雄 裁判官 古川実)

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